和 泉) ようこそ、けあ子さん。メールで質問をもらっていたので、お答えもある程度まとめておきまし
た。「なぜ利用者の立場に立った要介護判定システムをホームページ上に作ったのか」ですよね。
けあ子) わ、すごい。いきなり本題から入れるんですね。自己紹介もお互いのホームページを見ながらす
でに交わしていますし、メールでの打ち合わせの威力だなあ〜。
和 泉) サイトを公開した理由は、介護保険料を払い、サービスを利用する利用者サイドへの情報の提供
があまりにも少ないことに対して、アカデミックな立場からの補完ができるのではないかと思った
からなんです。1999年春に要介護認定の一次判定の仕組みが公開されるまで、利用者が介護保
険制度について知ることができる情報は数枚のパンフレット程度しかなかったでしょ。利用者とい
う一番重要な主体の存在が軽視されているように感じたんです。社会連帯の制度であるはずの介護
保険が利用者に十分に理解されないのは誰にとっても不幸なことです。インターネット上で公開す
ることにしたのは、情報を相互にやりとりできるメディアとしての特長に着目したからです。ホー
ムページとして常時公開しておくことで、利用したい人は自分の都合の良い時に自由に使えますか
ら。
けあ子) コンピューターによる一次判定がホームページでできるんですよね。
和 泉) 99年4月に公開され、7月に修正された一次判定のロジックに忠実にプログラムを書きました。
けあ子) え? プログラム自体が公開されたんじゃないんですか?
和 泉) ええ、そうだと楽なんですけどね(笑)。プログラムには著作権がありますから、厚生省が図表
で示しただけのものをプログラムに置き換えないといけないんです。40桁×1730行を一人で書
きました。
けあ子) 原稿用紙だと173枚分! まあ、作文とは違いますが、すっごく大変じゃないですか!
和 泉) しばらくのあいだ、不眠不休だったとだけ言っておきます(笑)。プログラムの基本が書けても、
実際に動かしてみると“バグ”といって細かなミスがたくさんあるんです。それらをひとつひとつ
チェックしていく作業は単調で時間がかかるんですよ。正直辛い作業でした。
けあ子) これは笑い事ではないですよ。でも、そうまでして、なんでプログラムを書こうと思ったんです
か?
和 泉) 研究職っていうのは、市民に対してアカウンタビリティー(Accountability)「説明責任」がある
と思うんです。一次判定についても利用者が納得できるあらゆる機会が必要だと思うんです。それ
は大学という研究機関のひとつの使命だとも思っています。
それと、私は小さい頃から障害を持った人たちと自然に付き合う機会が多かったんです。“ノー
マライゼーション”って言葉を後から知って、当たり前の事だと思いました(笑)。
また3年前に祖母が亡くなったんですが、わが家では、ヘルパー・デイサービス・特養入所と、
さまざまな福祉サービスを利用しました。その経験で学んだのは、「介護は社会化すべきだ」とい
うことでした。家族としてゆとりを持って、最期まで愛情豊かに祖母に接していけたのも充分なサ
ービスがあったからだと実感したんです。
けあ子) そんな思いが、大変なプログラムを書く原動力だったんですね。
では、これから和泉さんがチャレンジしていきたいことってどんなことでしょうか?
和 泉) ケアプランはできるかぎり自由で、利用者の価値観が反映したものになるべきだと思うんです。
そのためにもインターネット上で、誰もが自分自身でケアプランを立ててみたり、利用料金が試算
できたりするシステムを公開していけたらと思っています。私の研究のベースになっている政策科
学の分野では、市民がいかに行政の政策内容を検証・評価するか、といったことがトピックなんで
す。行政が自己評価したり、専門家が検証・評価するだけではなく、市民が自ら検証・評価するた
めには道具が必要ですから。
けあ子) ケアプランをホームページで作れるんですか?
和 泉) チャレンジしてみます。でも、自分自身で立てたケアプランが絵に描いた餅になっては困ります。
利用者主体のケアプランがちゃんと保証されるだけのサービス供給体制の整備がともなわなければ
ね。けあ子さん、よろしくお願いしますよ!
けあ子) わあ、最後に厳しい注文までいただいちゃいました。
今日はお忙しい中をありがとうございました。
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画 面
「利用者のための要介護判定システム」
URL http://kaigo.sfc.keio.ac.jp/
記事画像2(223K) 記事画像1(275K)ふれあいケア(2000年4月号・全国社会福祉協議会・出版部)
ふれあいネットワーキング