パンアリスの秘密  1991.2月カトレアホームだよりから

  初公開! パンアリスの秘密

                 生活相談員(当時) 高橋健一



 前回、この便りに原稿を依頼されたのは、1989年5月発行の10周年記念号でした。
 その中で僕は「老人ホームと人形劇」という題で
 「ホームとは家なのだから、いろんな人がきて、いろんな事ができるところだ」
 「10年目からのスタートは、ホームの中に子供の遊び場作りをもくろんでいます」と書きました。
 2年後の今、その夢が現実になっていることに喜びを感じています。
 振り返ってみると、1988年春から陶芸の指導者としてカトレアホームにきてくれている加山哲也さんの存在なしには、これらの事は語れないでしょう。

 ホームの中に忽然と現われた加山さんは不思議な存在感を保ちながら、本業の陶芸指導はさておいて、ホームの中にかぶり物の人形劇団パンアリスを誕生させました。
 加山さんが提案する考え方に、「ものつくりの発想」というものがあります。
 加山さんは「僕はしゃべるのが苦手だから」と言いながらも、折りにふれて、ぼそぼそと語ってくれます。
「指導者とよばれる人は、あくまで(陶芸を)楽しめる環境を作るだけ」
「作品をつくろうという やる気が起きないのに無理に勧めたり、しない人を やる気のない人として悪く捉えたりする発想は、本来の福祉のありかたと違うのでは?」
「陶芸は、リハビリの為に老人に させるものではない」
 個人の生活を、「処遇」という科学的な因果律で捉えていこうとする福祉観に悶々としていた僕は、このような加山さんの考え方に引き込まれていきました。
 陶芸をやるなら、まずは「陶芸が好きだ」「やってみたい」という人にホームに来てもらい、陶芸を楽しんでもらったらどうだろう。
 一見、老人福祉と関係ないようにみえるこの事が様々な出会いにつながっていきました。

〜 夢物語 〜

 加山さんとの出会いから3年。
 僕が意識してきたことは、「ここは老人福祉施設なのだから、老人のために〜をしなければならない」という観念的な枠をいったん棚に上げてみるということでした。
 一見福祉に関係ないように見える事でも 大切にしてみる。認めてみる。受け入れてみる。
 「福祉」という枠をいったん棚に上げて、自分自身がそして、まわりの人が楽しくなることをしていく。
 観念的な枠は、他ならぬ自分自身が作っているものですから、棚に上げるのも自分でできます。
 観念的な枠をいったん棚に上げてみると、カトレアホームは、可能性の宝庫だということに気づきます。
 カトレアホームでなければ出来ないことが、無限にあります。
 現実はそんなに甘くないよ。という声が聞こえてきそうです。
 はい、夢物語です。
だって、夢を、おとぎ話を、現実のものにしてしまうのが、人形劇のおもしろいところでしょ。「人形劇団パンアリス」なんですから。

〜 秘訣、教えます 〜

 ここで具体的に、加山さんの言う、ものつくりの発想の楽しさと秘訣のいくつかをご紹介します。

☆「楽しさが、楽しさを産む」

☆「自分の楽しさを広げて行くと、まわりも幸せになる」

☆「自分の幸福を越える幸福は、他の人にもたらせない」

☆「ものつくりは幸せ作り」

☆「物をみることが、ものつくりの第一歩。いろんな角度から物はみれる。一つの物は、一つではない」

☆「1+1=2 だけじゃない」

☆「自分の中に生じた感動をものにつくり上げるだけ。感動がないのに、上手なものを作ろうと考えるからつまらなくなる。」

☆「感動とは、自分の中の楽しさ、喜び、ワクワクする気持ち」

☆「自分の感動をものに現す時、あまりに素晴らしい感動の場合、到底、ものに現せないのではないか、という不安が浮かぶ。だが、できる瞬間を信じて創り続けることができるのが、ものつくり」(哲也さんのお父さんの日本画家・加山又造さん<http://www.netspace.or.jp/amuse/NARUKAWA/virtual2.html参照可能>が長谷川等伯の松林図屏風について語った言葉)

 毎週金曜日の夜に行なわれているパンアリスの集まりも、人形劇の練習と言うよりは、それぞれが持ち寄った夢を「ものつくりの発想」で語り合ってきたようです。
 お年寄りも職員もホーム自体が、夢を持って暮らしていける場所へと、ゆっくりと変わっていくように思えるのです。
 世界的にも、規則や、権限で人を縛ることに終わりを告げる時が来たような気がしています。一人一人が夢を生きれる世界を、まずは、いま、ここから、はじめたいのです。(1991.2)

 


 長谷川等伯の松林図屏風は、東京国立博物館写真の検索ページで、「名称」欄に「松林図」と入力すると、画像が検索されて出てきます。東京上野にお越しの際はぜひご覧になることをお勧めします。まあ、受け取り方は人それぞれですけれど...(^^)(96.10月頃記載)

 でも、よく考えてみると、これだけじゃ何の事だかわかりませんね。又造さんと哲也さんの親子の会話は、ほんとに聞いてて面白いんです。奥が深くて書き表しにくくて。まあ、興味がある方は、カトレアホームの陶芸教室にでもお越し下さい。哲也さんが折に触れてボソボソと語ってくれると思います。(97.1.27記載)


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