私が月刊誌『世界』(岩波書店)に発表した「高齢者福祉はなぜ腐蝕するか(上)」(l997年4月号)に対して、愛緩県老人福祉施設協議会(以下、愛媛県老施協と略称)が「事実誤認も甚だし」いとして、私の「謝罪」と私が所属する聖カタリナ女子大学の「釈明」がない場合には学生の実習と就職を拒否するとしていた問題は、愛媛県老施協が4月15目、この問題に関係のない学生を「人質」にとった非を認め、実習拒否を撤回したことにより「解決」したとされていますが、その後の経緯と今後の私の対応についてお知らせをしておきたいと存じます。
1.愛緩県老施協が自分たちの非を認め実習拒否を撤回しても残されたままの問題が幾つかありました。
lつは、愛媛県老施協が私の先の論文に対して、「事実誤認も甚だし」いとした問題です。そのゆえに、愛媛県老施協は学生の実習や就職拒否までもちらつかせて私の「謝罪」を要求したのですから、明確な論拠・根拠を示して、どこに「重大な事実誤認があ」ったのかを明らかにする義務と社会的責任があったはずです。
第2は、大学に提出した「抗議」文において、「素人には専門的に見えても、その実、現場関係者から見れば事実誤認も甚だし「非常に幼椎なレペルの低い内容」だと酷評・罵倒したことです。これは研究者である私の名誉・人格を著しく傷つけるものであり見逃すことばできません。このように酷評・罵倒し、人の名誉・人格を傷つける以上、自ら進んでその根拠・論拠を示すべきです。
しかし、愛媛県老施協は一向にその論拠・根拠を示そうとはしませんでした。そのため私は、弁護士を代埋人に選任した上で、別紙1の「抗議並ぴに申入れ書」と題する書面を4月8日に内容証明付き郵使でもって愛媛県老施協に送付し、今回、同会がとった行動に対して抗議をするとともに、(1)「論文」の「どの簡所が事実誤認であるかにつき、反対事実を、明碓かつ客観的な根拠を示して具体的に指摘されたい」、(2)「『非常に幼稚なレベルの低い内容』とお考えになる論拠をお示し頂きたい」と質問をし、「納得できる回答がない場合には、慰謝料請求その他の法的手段を検討せざるを得ない」ので、この書面到達後10日以内に書面にて説明するように求めました。
が、愛緩県老施協からは回答期限(4月20日)か適ぎても何の回答もありませんでした。のみならず、「もし回答期限に間に合わない場合には、その旨もご通知下さい」と述べておいたにもかかわらず、その通知すらありませんでした。
そこで、別紙2の「再度の申入れ書」を4月24日に再ぴ内容証明付き郵使でもって送付し、「回答が頂けない場合には、当方は貴協議会が右の求釈明事項について何ら説明材料を持たれず、反論権を放棄されたものと理解致します」と明記し、先の2つの質問に答えるように督促をいたしましたが、これに対しても愛緩県老施協からは回答期眼(5月3日)を過ぎても何の回答もありませんでした。
2.このことは、愛媛県老施協とは自己の発言に対して責任を負おうともしないモラルなき団体であることを示していると同時に、大学に「抗議」をした当初より、何の根拠・論拠もないままに「事実誤認」と声高に叫ぴ、学生の実習や就職拒否を武器に大学と私に圧力をかけていたことを自ら告白しているに等しい、と言わざるをえません。
私は今回の事件が報道されてより、報道を通じての愛接県老施協の主張を注視してきましたが、同会は3月19日に「事実誤認も甚だしい」いとして大学に「抗議」文を提出していたにもかかわらず、青木伸夫会長は3月31日の「なんかいニュースプラス1」で、南海放送記者の「どこが事実に反するのか?」の質間に対して、「この記事についての個々の内容は当事者施設でこれからいろいろ検証していく」と発言されています。また4月8日の毎日新間「取材帳」には、「『事実無根ってどこが違うんですか』と聞くと、『調べなけれぱわからない』との返事にあ然とした」と青木会長の発言が紹介されています。
この2つの報道も、私がここに述べたことを側面から立証するものと考えます。
3.私は上記1及び2で述べた理由から、愛媛県老施協が今回とった行動は、言論・思想・学問の自由などの基本的人権や民主主義に対する侵害行為であり、かつ私に対する名誉や人格を著しく傷つける行為であったと言わざるをえないことから、同会を名誉棄損で告訴することを検討しました。
しかし、@名誉棄損罪を成立させる公然性の立証が難しいこと、A現在の日本の司法制度の下では多くの時間・労力・費用をかけてもわずかの慰謝料しか得られないこと(もしも愛媛県老施協がこれをよいことにして先の私の求釈明に対して黙殺をしたとすれぱ、この団体はきわめて悪質で、一片の倫埋性も有していない、と言わざるをえません)、B自分たちの非を認め学生の実習担否を撤回したこと、Cすでに市民社会(世論)から厳しい批判を受けていること。こうした埋由から愛媛県老施協を名誉棄損で訴えることはしないことにしました。
4.ただし、今回の問題をうやむやにしないために、近々、小著を出版し、大学の対応を含めた事実経過を正確に記し公表したいと考えています。その際には、愛媛県老施協からの大学への「抗議」文、「愛接県老施協の圧力に届せす毅然とした対応をしてほしい」として私が大学に出した要望書、「毅然とした対応」をしたとは思えない大学からの同会への回答書、私の教授会での発言内容を記した文書などや、多くの市民から寄せられた愛媛県老施協への抗議文や、特別養護老人ホームを利用している家族や職員などから受け取った不正を訴えている手紙や資料などを添えて公表したいと考えています。
また、私が『世界』に発表した論文は、紙幅の都合から原稿を大幅にカットしていますので、公表時にはこの原文をそのまま発表するとともに、94・95年度の情報公開で得た監査資料の分析から判明した不審点や疑間点も明らかにするつもりでいます。
5.先に「まだ重大な問題が幾つか残されている」と述べましたが、その最大の問題は福祉サーピス利用者の権利擁護の問題です。
私は今回の論文において、今後の福祉改革の方向として、福祉サーピスの品質保証のシステムを創りあげることの重要さを強調しました。この品質保証のシステム創りこそが、福祉を腐蝕から防ぐとともに、主権者である国民が真に重んじられる福祉社会の実現の鍵になると確信していたからですが、論文を発表して以来、また愛媛県老施協の不当な圧力を受けていることが報道されて以来、特別養護老人ホームなどの老人福祉施設を利用している家族や職員から、施設の横暴さや、施設利用者が無権利状態に置かれていることを訴える手紙や電話を多数受け取りました。その内容には、先に東京で民間ポランティアが行った「老人ホーム・民間110番」に寄せられた訴えと共通するものが多数ありました。
私は、福祉サーピスにおける品質保証のシステム創りの必要性を強調してきたものとして、今後、「福祉オンプズマン」などの利用者の権利擁護の取り組みを始める必要があると考えております。
特別養護老人ホームなどの老人福祉施設の運営には年間数千憶円もの税金が費やされていますが、それは本当に高齢者の福祉のために使われているのだろうか?税金が不正に使用され、営利迫及の資金に利用されていることはないのか?
近年、急増している老人保健施設や病院でのデイケアを含めて、この問題はまだ解明されていません。先の品質保証、権利擁護の問題とともに、各報道機関のみなさんに関心を寄せていただきたいテーマであります。
以上が、みなさんにお知らせしておきたかった内容です。私の今後の社会的活動までみなさんにお知らせをする必要はなかったやもしれませんが、愛媛県老施協の不当な圧力を受けた際に私の方からみなさんに事実関係をお知らせしたという経緯がありますので、私の二度にわたる「求釈明」に対しても愛媛県老施協からは一切の回答がなかったという事実と併せて、今後の私の行動も皆さんにお伝えした次第です。
1997年5月9日聖カタリナ女子大学社会福祉学部
永和良之助(自署)